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聞いた言葉・第126回目、トリクルダウン理論(trickle-down theory)

トリクルダウン理論(trickle-down theory)

 今回のこの言葉は、もう40年前にもなるでしょうか、私が社会人になってしばらくたってから何かの雑誌か週刊誌で見たような覚えがあります。このトリクルダウン理論(trickle-down theory)を分解して、英語を直訳すると、「trickle=滴り(したたり)」、「down=下がる」、「theory=理論」です。直訳を続ければ「(水などが)滴り落ちるような理論」とでも言うのでしょうか。さらに重複して補足しますと、例えば「コップに水を注ぎ続ければ、上からからあふれた水は、外に滴り流れ落ちてコップ周辺を潤す」ことのようです。

 この言葉は政治や経済などの記事では、「お金持ちなどの富裕層(大企業)に経済政策(税金の優遇政策や大規模補助金など)を実施すれば、そこは潤い(景気が良くなり)、そこから、おこぼれが回ってきて自然に貧乏人や中小零細企業も良くなる(国全体の景気も良くなる)」と言う使い方でした。ただし、この理論は、コップの水と同じようには全く機能しない、あるいは何の役に立たない経済政策と同時に言われてきました。

 そのほんの一例として、いくら大企業が大もうけしても、それを従業員や取引先の中小企業に回すでしょうか? もしかしたら極一部の会社はするかもしれませんが、ほとんどの大企業の場合、より一層の貯め込み(内部留保)、自らの会社を大きくするための設備投資、あるいは海外進出に資金に回すだけでしょう。分かりやすく自分なりに解釈しますと、「国の大企業優遇政策(元々は全て税金)は、コップから水を滴り落とすためではなく、会社の規模をコップに例えると現状の100ccの容量から、さらに200cc、500ccへと大きくして、むしろ外に出さないようにしているだけ」とも言えます。

 日本の経済政策は、戦後の一部の時期を除けば、いっかんして大金持ちや大企業には優遇だったとしても、国民や中小企業には痛みを押し付けられ、国の借金が増えるだけの全く役に立たない「トリクルダウン式」のやり方ばかりでした。特に、小泉流政治で「痛みに耐えてカイカクを」の言葉に象徴されるような政策が、マスコミの大応援団報道も得て実施され、さらにひどくなったのは誰の目にも明らかでした。しかも、この結果について、その政策を実施した政党も政治家も、あるいはその推進・応援団をしたマスコミも基本的には何の反省はないと言えます。

 そこで、もう、これ以上は「耐えられない、(自公政権などには)騙されない」として、国民がせめて一矢を報いようとしたのが、2009年夏の総選挙だったと思います。しかし、かなりの方が総選挙前から「自公政権も民主党政権も、基本の政治は変わらない」と言われていましたし、同時に私自身も、ささやかながら、この「聞いた言葉シリーズ」第119回目で婉曲な言い方ながら「カレーライスとライスカレーの違い」しかない選択だと書きました。それらの指摘は総選挙前だけでなく、政権交代後の現実の政治として約1年間で明らかになったのではないでしょうか。

 旧態依然として、毎回まるで映画俳優か芝居の役者が変わるみたいにマスコミは首相や大臣選び、あるいは新党設立騒ぎを相変わらず派手に報道していました。しかし、最も大事な、肝心かなめの政策そのもの、つまり普天間問題や、その他沢山ある重要問題にしても、「現行政治の悪い点や問題になっている点を、どう変えるのか」が、欠落していますし、触れようともしません。なぜ、触れないのか、なぜ国民的な議論にしようとしないのか、それは「虎の尻尾を踏む」ことになるからではないでしょうか。

 「虎」は、誰なのか? 日本国憲法では主権は、国民にあります。本来なら、その国民のために現実の政治や経済政策も実施されなければなりません。しかし、その主権者の意思とは別に、選挙権もない、影の支配者(偽りの主権者)として、アメリカと大企業が、この国には「君臨」しているのです。それは、「外交はアメリカの言いなり、内政は大企業の言いなり」という言葉が端的に示しています。また、このことは例えばヨーロッパの先進資本主義国と根本的に違うことと言われてもいます。

 今の政治や経済政策を続けたいと思っている政党、政治家、マスコミその他は、この一線を踏み越えたくない、今の枠内で何でも処理し目先だけで変わったように国民に見せかけ、選挙で、また議席を得たいと思っているだけとも思われます。これでは、国民が本当に願っていることと全く逆行しているのではないでしょうか。

 いくら表面上の政権交代がなされても、中身、内容が、トリクルダウンも含めて根本的に変わらない限り、「不安定雇用者の増大」、「格差社会」、「医療制度の不安」、「年金不安」、「過労死」、 「年間自殺者3万人」とかの言葉で象徴されている日本の状況は変わらず、より一層深刻になっていくでしょう。

 庶民の中には、大金持ちになりたいと言う方はおられるかもしれません。でも、現実は今の先行き不安な生活、あるいは派遣や短期間労働など不安定な雇用形態、さらには失業などから脱して、まずは安定的な生活、(日本より経済力のないヨーロッパ各国で現在でも実施中の)「医療費や教育費は原則無料、老後の年金でも生活できる」みたいなこと(政策)を多くの方が望んでおられるのではないでしょうか。

私の関係ホームページ
 経済=経国済民
 資本主義の暴走、資本主義の暴力
 日本売り

 悪貨は良貨を駆逐する(グレシャムの法則)

 真実を自分で探す時代

 過去の歴史からしてトリクルダウンの破綻は証明済みですから表だって使えないものの、現在でも表現を変えたり、色々な言い訳を用いて政権交代後の今でも実施中、もしくは強めようとするかもしれない政策です。私は、この「聞いた言葉シリーズ」(2003年4月14日付け)第25回目「経済=経国済民」に、経済の語源である”経国済民”=国を経め(おさめ)民を救う」立場での政治が必要だと書き、さらに「中国の古い言葉だけではなく、現在でも脈々と常に流れ続ける”新しい言葉”のように私は思えます」とも記述しています。

  このページを書いてからも既に7年経ち、その後、表面上の政権交代もありましたが、中身は(経済政策の用語として使うか、つかわないかは別としても)「トリクルダウン式」のやり方は、基本的に変わりませんでした。そのような状況からして、むしろ、経済の語源である、この中国の古い言葉(経済=経国済民)の具体化こそが改善の近道であることを展望しているとも思えます。また同時に、表面上の変化を言うだけの政治家を何百人増やしても、現実は変わらないことを如実に物語ってもいます。

(記:2010年9月28日)
  

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