TOP INDEX BACK NEXT

聞いた言葉・第55回目、音に深みがある

 
音に深みがある

 この言葉は、色々な方から聞き、ステレオ関係の雑誌などでも見ました。「トランジスターやICのアンプよりも、真空管アンプの方が音に深みがある」とか「同じように再生した音楽でも、音に違いがあるとすればそれは音に深みがあるか、どうか」などと聞きました。(このページ掲載写真は、元同僚所有の真空管アンプ、McIntosh275=マッキントッシュ275です)

McIntosh275(マッキントッシュ275)
 私は、1970年頃(高校生時代)に同級生などの手伝いも受け、数台のアンプを作りました。その中の1台が真空管6BQ5のプッシュプルのメインアンプでした。主要な真空管やトランスなどは、総て兄が秋葉原から送ってくれました。

 ご参考までに、もうこの当時市販のアンプは、真空管からトランジスターやLSIなどに変わっている頃だったと思います。ただ、高校生の技術程度や予算からは、まだ真空管式の方が作りやすかったと思います。

 そんな中、何か自分でも作ってみたいなあと思っていた時、初心者向けの本に配線図もイラスト入りで丁寧に描かれていたのを見つけて、「これなら自分でもできるかなあ」と思ったのが、きっかけでした。

 なぜ、真空管を6BQ5にしたかと言うと特に根拠はなく、その本の配線図がそうなっていたからです。ただし、この真空管は、アマチュア無線をやっていた者としては馴染みがあり、値段的にも手頃だったと思います。出力はプッシュプルでも片側2ワット出なかったと思います。(今なら、もっと別の管球を使っていたかもしれませんが)

 このアンプ制作と同時に2cm厚の合板で、幅50cm位、高さ100cmくらいのスピーカーボックスも2台作り、直径30cmのダブルコーンスピーカーを入れました。アンプもボックスも出来上がりましたが最初はうまくいかず、後で同級生などの協力を得て、チャイコフスキーのピアノコンチェルト第1番のレコードが鳴りました。

 それから、しばらくして社会人となり、すっかりアンプや真空管のことは忘れていました。25歳近くにもなっていた頃でしょうか、神戸の同僚宅に泊まる機会がありました。そこで見たのは、掲載写真のマッキントッシュ、マランツ、JBL4343の(スタジオモニターシリーズ)スピーカー、セルラホーン、ルボックスのオープンデッキその他今まで私が見たことがないような機器が置いてありました(後年にはEMT927レコードプレーヤーも購入していました)

 早速彼が好きなジャズの何曲か聴かせてもらいましたが、なかなか柔らかい感じの音色が響いていました。彼が言うには「自分は高級品思考ではない。本物の音を追求していったら、こんな感じになった」と。また、並んでいる外国製品についても「日本製品は、直ぐモデルチェンジするし、壊れやすく、長年使えない。その点、自分が持っている外国産は、高いけど誇りを持っておれるし、長年使えるから、値段も見合ってくる」と。

 そんな話を聴きながら見たり、聴いたりした一つが真空管アンプで「このほうが音に深みがある」という言葉とともに忘れられないものでした。あと話しは逆戻りしますが、私が高校生時代に作ったアンプは、アルミのシャーシに管球を載せただけでケースに入れませんでした。それで、部屋の電気を消してアンプのスイッチをONにすると、最初真空管の灯かりがほの暗く段々明るくはなり、なかなかの雰囲気がありました。

 また、私の手作りアンプやスピーカーは(今いまの何十ワットも出るスピーカーに比べ)確かに名目上は低出力だったかもしれませんが、しかし数ワットの出力でも実家の8畳の間に響き渡っていました。つまり、低出力アンプでもそれなりの音が出ていたと言うことは、スピーカー自体が”高性能”だったと思われます。はたして、昨今のスピーカーは低出力アンプを通したら、どれだけ出ているのでしょうか。

 現在色々な分野で(非常に抽象的ですみませんが)直接目に見えないもの、あるいは耳に聞こえないもの、一見無駄に見えてしまうような行為など、総て余計なモノとの風潮でカット、削除、不必要として処理されます。果たして、全部がぜんぶ、そうなんでしょうか。

 今回取り上げている真空管アンプは、この人間の耳に直接聞こえないような音や音域=無駄とも思えるようなところまで、再生しているのではないでしょうか。電子計測上、耳に普段必要なしの音や音域でも、逆に音楽などを聴く時はそれがむしろ余裕あるいは幅を超えたものとなって耳に届くから、深みのある音を実感すのではないかと思います。

 たとえが場違いな感じもしますが、床の間は通常生活には必要なく、部屋スペースからすれば「無駄な空間」みたいに思えます。しかし、その空間があるからこそ、逆に部屋が広く、奥行きがあるようにも見えます。これと似た雰囲気が、真空管アンプにも、その他の分野でもあるような気がしてなりません。
(記:2005年12月8日)

TOP INDEX BACK NEXT